う蝕(むし歯)とアパタイトの脱灰 その3|長浜市、米原市の歯科医師会「一般社団法人湖北歯科医師会」

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う蝕 むし歯歯科の科学

う蝕(むし歯)とアパタイトの脱灰 その3

今回はどのようにして、歯のアパタイト結晶が溶けて(脱灰)、う蝕が進行するかというお話です。

これがヒドロキシアパタイト(Ca₁₀(PO₄)₆(OH)₂)の結晶です。ヒドロキシアパタイトは、歯のエナメル質の主要な成分であり、すごく硬いのですが、酸に対して比較的弱い性質を持っています。

むし歯になっていない歯のエナメル質表面を電子顕微鏡で観察すると、小さな柱状の構造を見ることができます。でも表面は滑らかです。大きな亀裂や、でこぼこはない様子がわかります。ヒドロキシアパタイトの結晶でできているんです。

歯の象牙質を観察すると、象牙細管という細い管で形ができているのがわかります。このため象牙質が露出すると、痛みの感覚がおこると言われています。そのため象牙質まで虫歯が進行すると、急速に虫歯が進行することになります。

これらの電子顕微鏡写真は、タイニー・カフェテラス 永田文男様からご提供いただきました。
http://www.technex.co.jp/tinycafe/

 

グルコースと、フルクトースが結合して、砂糖が作られています。

1. 酸の生成
ミュータンス菌などの口腔内細菌が「sucrose=砂糖」を、「glucose=ブドウ糖」と「 fructore=乳糖」に分解して、菌の養分となり、分解されて乳酸になって排出されます。この酸が歯の表面に付着したプラーク内に蓄積されます。プラークは、その2で説明した『不溶性グルカン』というネバネバで溶けない物質でできています。『不溶性グルカン』は、ミュータンス菌によりブドウ糖から合成されます(α-1,3結合)。菌を保護する膜になっています。

2. pHの低下
酸の生成により、プラーク内のpHが低下し、歯の表面にも酸性環境が形成されます。通常、口腔内のpHは中性(約7)ですが、酸性環境ではpHが5.5以下に低下します。とくに砂糖を多く含んだ食品の頻回の摂取は、継続的にpHの低下を持続させ、その結果、「脱灰」時間が延長して「う蝕リスク」を増加させます。「臨界pH」の説明は文末をご覧ください。

3. 脱灰反応
酸性環境下で、ヒドロキシアパタイトは以下の化学反応により脱灰されます:
Ca₁₀(PO₄)₆(OH)₂+8H+  →  10(Ca²⁺)+6(HPO₄²⁻)​+2H2​O
この反応により、ヒドロキシアパタイトの結晶構造からカルシウムイオン(Ca²⁺)やリン酸イオン(HPO₄²⁻)が溶け出します。脱灰が進行すると、エナメル質が弱くなり、再石灰化が行われない限り、脱灰が進行し続け、う蝕が悪化します。

プラークの中で虫歯になりだしたところの電子顕微鏡写真です。100μ=0.1mmです。だいたい髪の毛1本分の大きさになります。案外きれいそうに見えますが、そこを拡大してみてみます。

小さなくぼみの中に、びっしり菌が張り付いています。まわりにも菌がびっしり張り付いているのがわかります。菌の大きさは約1μm ということがわかります。このようにして張り付いた菌に侵蝕されるようにして、歯の結晶が溶かされていきます。

もう一枚のむし歯になった部分の電子顕微鏡写真です。2枚目が5倍、3枚めが10倍の倍率で観察されています。崩壊した歯質の、大きく削れた部分に、細菌が固着して、象牙質を侵蝕している様子が観察されます。

4. 再石灰化の重要性
唾液には歯を守る力が備わっています。それが「再石灰化」です。「再石灰化」は、唾液中のカルシウムやリン酸を利用して、脱灰されたエナメル質を修復するプロセスです。さらに、フッ素を含む歯磨き粉や洗口液は、再石灰化を促進し、エナメル質を強化する効果があります。

Ca₁₀(PO₄)₆(OH)₂+8H+  ⇄ 10(Ca²⁺)+6(HPO₄²⁻)​+2H2​O

5.フッ化物イオンのはたらき

フッ化物イオンは歯に作用し、歯のエナメル質を構成するヒドロキシアパタイト の結晶性を改善、再石灰化促進、さらにヒドロキシアパタイトを構成する水酸基(OH)をフッ素化することで酸に対して抵抗性の高いフルオロアパタイトを生成します。これらにより歯質が強化され、さらに耐酸性を向上させます。

参考資料

臨界pHとは、歯質がミネラルの喪失を起こすもっとも高いpHの値で、象牙質でpH6.0~6.2、エナメル質でpH5.5以下です。象牙質のほうがより酸に弱いということです。プラーク中のpHが5.5以下に低下すると、ハイドロキシアパタイトが唾液やプラーク溶液中に溶出してしまいます。この状態を「脱灰」といいます。その一方で、唾液中のリン酸イオンやカルシウムイオンが「脱灰」された部分に再び取り込まれれば、ハイドロキシアパタイトを析出します。これを再石灰化といいます。この時に形成するアパタイトは、溶液中にフッ化物イオンが存在すれば、耐酸性の強い「フルオロアパタイト」が生成されます。