う蝕(むし歯)とミュータンス菌 その2|長浜市、米原市の歯科医師会「一般社団法人湖北歯科医師会」

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う蝕(むし歯)とミュータンス菌 その2

ミュータンス菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)は、う蝕の主な原因菌の一つです。この菌は、口腔内に常在し、「糖分」をエネルギー源として「酸」を生成します。この酸が歯のエナメル質を溶かし、う蝕を引き起こします。

ミュータンス菌の特徴
分類: グラム陽性、通性嫌気性のレンサ球菌
発見: 1924年にJ. Kilian Clarkeによって発見されました。
感染経路: ミュータンス菌は、口移しや食器の共有などを通じて唾液から感染するとされています。

ミュータンス菌が糖分を材料としてグルカンを産生し、歯の表面に強く付着するプロセスは、以下のように進行します。

1. 糖分の取り込み
ミュータンス菌は、食事や飲み物に含まれる糖分(特にスクロース)を取り込み、グルコースとフルクトースに分解します。糖分は、菌のエネルギー源として利用されます。

2. 「不溶性グルカン」の合成
ミュータンス菌は、取り込んだ糖分を材料にして、酵素を使って「不溶性グルカン」(多糖類)を合成します。グルカンは、菌体外多糖(EPS)として菌の周囲に分泌されます。

3. プラークの形成
「不溶性グルカン」は、歯の表面に強く付着し、他の細菌や食物残渣とともにプラーク(歯垢)を形成します。プラークは、歯の表面に粘着性のバイオフィルムを作り出し、ミュータンス菌が歯に定着するのを助けます。

4. 酸の生成とエナメル質の脱灰
プラーク内のミュータンス菌は、糖分を代謝して乳酸などの酸を生成します。この酸が歯のエナメル質を脱灰し、う蝕を引き起こします。

『不溶性グルカン』
構造: 主にα-1,3結合で構成されています。
特徴: 水に溶けにくく、非常に粘着性が高いため、歯の表面に強く付着し、プラーク(歯垢)の形成を助けます。歯の表面に付着することで、他の細菌とともにバイオフィルム(プラーク)を形成します。このバイオフィルムがう蝕の原因となります。砂糖(ショ糖)がグルカンの形成において重要な役割を果たす理由は、ミュータンス菌がショ糖を特に効率的に利用して「不溶性グルカン」を生成するためです。

砂糖(ショ糖)の特性
高いエネルギー源: ショ糖は、他の糖類に比べてミュータンス菌にとって非常に効率的なエネルギー源です。これにより、菌が活発に活動し、グルカンを大量に生成します。

砂糖の摂取とう蝕の関係
頻繁な摂取: 砂糖を頻繁に摂取すると、口腔内のpHが低下し、酸性環境が長時間続くため、エナメル質が脱灰しやすくなります。

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このように、砂糖はミュータンス菌によるグルカン生成を促進し、う蝕のリスクを高める主要な要因となります。他の糖類もグルカン生成に影響を与えますが、ショ糖ほど効率的ではありません。以下に、いくつかの主要な糖類とその影響を追加説明します。

フルクトース(果糖)
影響: フルクトースは、ショ糖ほど効率的にグルカンを生成しませんが、ミュータンス菌はフルクトースを利用して酸を生成することができます。特徴: フルクトースは、果物や蜂蜜に多く含まれ、甘味が強いです。

グルコース(ブドウ糖)
影響: グルコースもグルカン生成に利用されますが、ショ糖ほど効率的ではありません。特徴: グルコースは、エネルギー源として体内で重要な役割を果たします。

ラクトース(乳糖)
影響: ラクトースは、ミュータンス菌によるグルカン生成にはあまり寄与しませんが、他の口腔内細菌によって代謝されることがあります。特徴: ラクトースは、乳製品に含まれる糖です。

マルトース(麦芽糖)
影響: マルトースもグルカン生成に利用されますが、ショ糖ほど効率的ではありません2。特徴: マルトースは、デンプンの分解産物として生成されます。

スクロース(ショ糖=砂糖)
影響: ショ糖は、ミュータンス菌によるグルカン生成に最も効率的に利用されます。ショ糖から生成されるグルカンは、不溶性で非常に粘着性が高く、歯の表面に強固に付着します。特徴: ショ糖は、砂糖として広く使用され、甘味料として多くの食品に含まれています。

このように、他の糖類もグルカン生成に影響を与えますが、ショ糖が最も効率的であるため、う蝕のリスクを高める主要な要因となります。

ここからはもう少し詳しい説明です。

グルカン(glucan)は、D-グルコース(ブドウ糖)がグリコシド結合で繋がった多糖類の総称です。グルカンは、結合の仕方によってα-グルカンとβ-グルカンに分類されます。

α-グルカン
構造: α-グルカンは、グルコースがα-1,4結合やα-1,6結合で繋がったものです。
例: アミロース(うるち米)、アミロペクチン(もち米)、グリコーゲン(動物の貯蔵糖)など。
特徴: α-グルカンは消化酵素によって分解され、エネルギー源として利用されます。

β-グルカン
構造: β-グルカンは、グルコースがβ-1,3結合やβ-1,6結合で繋がったものです。
例: ラミナラン(海藻)、シイタケ、マイタケ、パン酵母、オーツ麦、大麦、セルロース(木)など。
特徴: β-グルカンは消化されにくく、食物繊維として腸内環境を整える効果があります。また、免疫力を高める効果や抗ガン作用があるとされています。グルカンは、日常の食事から摂取することができ、健康維持に役立つ成分です。

ここからは、参考にちょっとむずかしい、グルカンの分類です。
同じグルコースのブロックなのに結合の部位が違うんです。

グルカン (glucan) は、D-グルコースがグリコシド結合で繋がったポリマーです。一つのグルカンの中に二つの結合様式が混在することはあるが、α型とβ型が混在することはなく、それぞれαグルカン、βグルカンと言われます。

(a)D-グルコース はブドウ糖です。これがブロックの基本単位で、つながってグルカンとなります。

(b)デキストラン (dextran) はグルコースのみからなる多糖類の一種。スクロースを原料として乳酸菌が生産する。グルコースを唯一の構成成分とし、α-1,6-グリコシド結合を多く含むことが特徴。

(c)ムタン(mutan)とは、ミュータンス連鎖球菌によってつくられる、粘着性が強く不溶性のグルカン(多糖体)の一種。ムタンを合成できるのは、数百種類におよぶ口腔内細菌のうち、ミュータンス連鎖球菌のみである。α-1,3-グリコシド結合が特徴で、これで容易に分解されなくなる。

(d)アルタナンはα-1,6結合とα-1,3結合とが交互に繰り 返された直鎖状の α-グルカン。

(e)澱粉(reuteran)は, D-グルコースによって構成される多糖であり, α-1,4-グルコシド結合で重合した鎖の部分,および,とこ ろどころに存在する α-1,6-グルコシド結合によって枝が分岐するという構造である。これは食べられます。私たちの食糧ですが、ミュータンス菌の餌にはならないです。