子どものたんぱく質
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」を見ると、1日のたんぱく質推奨量は6歳(男子)の30g、14歳(女子)は55g。実際の1日の平均摂取量は1~6歳(男子)が平均47.6g、7~14歳(女子)の平均が67.3gで、データ上は、いずれの年齢層も推奨量を上回っているように見えます。国が提示している推奨量は病気にならないギリギリの量です。健康な状態を目指すには、推奨量の数値を上回るたんぱく質の摂取が必要です。

実際に何らかの悩み事・困りごとで病院に受診する子どもたちの多くが、たんぱく質不足を言われています。日本人のたんぱく質摂取量は、1995年にピークを打って(1日81.5g)、その後2011年に1日67.0gと減少していき、1950年代と同レベルまで低下しました。2025年のデータでも1日70g前後と停滞しています。不足すると気分や睡眠、集中力にも影響し、こだわりが強く偏食がある、些細なことでイライラしやすく、周囲とのトラブルが絶えない、注意力や集中力が続かない、不安感が強く、物音や匂いなどに過剰に反応してしまう、寝つきや寝起きが悪い、すぐに風邪をひいてしまう、などがあります。こうした不調や発達などの悩みの多くには、たんぱく質不足が関係しているといわれています。

しっかり食べているつもりでも、検査をすると不足が明らかになることも。特に注意が必要なのは女の子。女の子は男の子よりも筋肉量が少ないことも影響し、また、女の子は小学校高学年になると月経で貧血リスクが上がるため、たんぱく質の摂取量が少ないと貧血リスクも上がります。
たんぱく質不足が疑われる子どもに多く見られる傾向
- 偏食(出された食事を食べない/特定のものしか食べない)
- 髪や皮膚の状態が悪い
- 痩せている(「ぽっちゃり」も要注意)
- 風邪などの感染症にかかりやすい
- 少しの怪我も強く痛がる
- 寝つきが悪く、朝もすっきり起きられない
- 落ち着きがなく、物事に集中できない
- いつも機嫌が悪そうに見える
- 周囲とのトラブルが目立つ
- 不安が強く、光や音、匂いなどを強く感じ取ってしまうなど刺激に敏感
なぜたんぱく質が不足すると、こうした不調が出てくるのでしょうか。
それは、たんぱく質が、筋肉や臓器、血液だけでなく、ホルモンや病気と闘う抗体、情報を伝える神経伝達物質、体内で多様な栄養素の働きを助ける酵素など、まさに人間の全身を構成する細胞や物質の原料だからです。例えば、脳内には、心を安定させるセロトニンや、やる気を生み出すドーパミンといった神経伝達物質がありますが、これらの原材料のひとつがたんぱく質(アミノ酸)です。セロトニンが不足すると、不安感が強くなったり、周りの音に敏感になったり、イライラしやすくなります。また、睡眠ホルモンであるメラトニンが不足すると、寝付きや寝起きが悪くなり、睡眠の質が低下します。情緒の安定も損なわれます。

アミノ酸のバランスが崩れると、集中力が続かなくなったり、攻撃性が高まったりするという研究報告もあります。アミノ酸を原料として作られる神経伝達物質は、脳の神経細胞(ニューロン)の間でやり取りされています。神経細胞がセロトニン、メラトニンといった物質をキャッチすることで、睡眠や情緒、記憶、認知機能などが適切に働くのです。たんぱく質不足でこの仕組みがうまく回らなくなると、情緒が不安定になったりするだけでなく、痛みを感じる閾値が下がって痛みに敏感になるといった身体的な影響も出やすくなります。痛みの閾値の低下には、グルタミン酸やアスパラギン酸などが関与しています。私たちがその子の性格だと思っているような、「友達に冷たくしてしまう」「イライラしやすい」「頑固」などの特性も、実は脳の働きの現れであり、それは何をどう食べるか、の栄養状態で変わる部分があります。体に入ってきたウイルスや細菌と戦う“抗体”も、たんぱく質から作られています。たんぱく質が不足していれば、どんなに気をつけていても、ウイルスに対抗する抗体を作ることができません。十分なたんぱく質摂取は、最適な免疫反応を引き出すために必要です。

たんぱく質の主な働き
酵素は食物の消化・吸収・代謝などをサポート。構造たんぱくは結合組織や細胞間で体の構造を支える(皮膚や髪、筋肉など)。防御たんぱくは細菌やウイルスなどを攻撃する抗体となり、免疫力を維持する。調節たんぱくは脳内ホルモンや成長ホルモンとして、体の成長や機能を調節する。貯蔵たんぱくは体内に必要な栄養成分(鉄分など)を貯蔵する。
主な神経伝達物質とその機能
セロトニンは気分、痛み、食欲、覚醒。
ドーパミンは運動機能、気分、覚醒。
ノルエピネフリンは覚醒、集中力、不安。
ヒスタミンは食欲、覚醒、体温調整。
一酸化窒素は覚醒、不安、記憶。
グリシンは運動機能。

たんぱく質をしっかり摂ると、子どもの気質が穏やかに
国民健康・栄養調査で示されている1日に必要なたんぱく質の目標量はオプティマルヘルスに近い概念で、身体活動量別にその人に必要なカロリー摂取量の13~20%とされています。具体的な数値は、身長や体重、年齢、身体活動量などから算出する必要があります。摂取のポイントは、朝食抜かずバランス良く。量以外にも気をつけるべきたんぱく質の摂り方のポイントがあります。たんぱく質は体内に貯蓄することができないため、一度にたくさん食べても、分解・排出されてしまいます。1日3食に分けて摂取することが大切です。特に注意して食べてほしいのが朝食。朝食で摂取したたんぱく質は、時間をかけて分解・吸収され、セロトニンなどの神経伝達物質へと変換されます。これらの物質が十分に分泌されることで日中の情緒が安定し、その日1日を機嫌よく過ごすことができます。朝のたんぱく質摂取は、空腹ホルモン「グレリン」の分泌を抑制し、無駄な間食やドカ食いを防ぐ効果も期待できます。朝食でたんぱく質をしっかり摂った人ほど、周囲の人に対して優しい態度を取ることができたという研究結果も報告されています。脳のご機嫌スイッチを入れるという意味でも、一日のたんぱく質の最初の補給タイミングという意味でも、朝食でたんぱく質を取ることが重要です。また、動物性と植物性のたんぱく質を偏りなく、両方摂ることも重要です。


